社会人としての在り方を考えさせられる1冊
今回は、池井戸潤さんの「鉄の骨(講談社)」をご紹介します。
本作は、建設業界を舞台に談合について主軸を置いてストーリーが展開されていきます。読み進めていく中で、「正しい事とは何か?」「社会人(サラーリマン)としての在り方とは?」と深く考えさせられました。
あらすじ
中堅ゼネコンである一松組の若手、富島平太が現場から異動となった本社の部署は“談合課”と揶揄される、大口公共事業の受注部署だった。
東京都内の地下鉄工事の受注に向け、新工法の採用などの懸命なコスト削減に取り組み真正面から入札に取り組もうとするが、、、というのが大まかなあらすじです。
みどころ① 正義とは!?
主人公である富島平太(以下、平太)が、マンションなどの現場を監督する仕事から、本社の通称“談合課”と言われる業務課へと異動になるところから物語が始まります。
先輩である西田に付いて、役所や同業者を回っていくうちに公共工事の受注に向けどのように“調整”が行われていくのか平太は知る事になる。最初は、談合はいけない事だと反発する平太であったが、次第に「必要悪」という周りの言葉に影響され談合への抵抗が薄れていくのであった。
談合は、世間一般的には犯罪行為として認識されていますが、公共工事による利益かが会社を支えている一松組にとっては、公共工事を受注するかどうかは死活問題。そんな中、犯罪だからと言って仕事を放棄するのか、サラリーマンとして社命に従うのか、この狭間で揺れ動く平太の心情や周りの人の発言がみどころのひとつだと思います。
誰でも、大なり小なり「自分が正しいと思う事」と「会社の利益(目標)」との衝突を感じたことがあると思いますが、この作品ではその衝突を抑えながら懸命に仕事に取り組む平太の姿が描かれており、白黒はっきり線引きしない点がリアリティを生んでいると感じます。
あなたなら、同じような場面に遭遇した場合どうしますか?
みどころ② 主人公の恋の行方
この本では、池井戸作品には珍しく恋愛の要素も絡めてられています。
平太には、大学時代の同級生で社会人になってから付き合い始めた萌という彼女がいますが、平太の異動をきっかけに二人の関係がギクシャクし、萌は勤務する銀行の先輩に惹かれるようになり、、、という展開になっています。
彼女の心が離れていきそうになった時、ちょっといい店に食事に行ったり妙に優しくしたり、果てには高価なプレゼントを買ったり。。。そして、なんとか修復できるはずだと楽観的なところ、全て自分のことのようで、読んでいてて切なくて胸が張り裂けそうになります。
平太の恋の行方については、作者である池井戸さんの希望を込めた結末になっているような気がします(現実では、他の人に心が傾いた時点でバッサリ振られるような気が・・・)。
談合はなぜ無くならない?
たまに、談合の疑いでゼネコンの役員や社員が逮捕されたというニュースを目にしますが、どのように談合が行われるのかについてはこれまで全く知りませんでした。
本作では、取材を重ねられ、談合に至るまでの過程が詳細に描かれています(フィクションの要素も大いにあるかと思いますが)。そして、「なぜ談合がなくならないのか」という点についても、業界の体質に加えて入札制度の不備なども挙げて作者なりに問題提起しているように感じました。
大勢の人が関わる建設業界で、何かを変えるということは大変なことだと思いますが、昨今の人手不足などで変革の時代を迎えているのではないかとも感じます。また、公共工事我々の税金が使われるので、入札制度等がより良く変わっていけるように興味関心を持ち続けていきたいと思いました。
今回、ご紹介した「鉄の骨」は600ページを超える大作ですが、話のテンポも良く、どんどん引き込まれてあっという間に読み終えてしまいました。「談合」というものについて考えるきっかけにもなるので、ぜひ読んでみて欲しい作品です。
また、本作は神木隆之介さん主演でドラマ化されているようです。しかも、WOWOW×池井戸潤というかなり期待を持てる組み合わせなので期待大です!
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